これが私の書きたいこと! 失いながら生きる(17)

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失いながら生きる(17)

 占星術上の最悪の時期を通過しながら、自分は少しずつ良くなっているのかもしれない・・・という希望だけは捨ててはいけないと常々思い出すように努力はしているつもりである。しかしその努力は殆ど失敗に終わっているのだが・・・。この46歳から48歳の時期には、家族全員があらゆる意味で環境を変えざるを得ないような時期に当たっていたために、本当に大変な時期で、自分も殆ど入院しているような状態だった。家にいたら指図なしでは何もしない人間ばかりであったのが主な理由であった。それは、元気だった頃の自分が家族の全てを把握しており、順調に回るように常に神経を尖らせていたことと無関係ではない。
 夫のトントン拍子の昇進など家族全体や、収入面では確かに進歩したかもしれない。しかし、自分は毎日どうやって死のうか・・・強盗でも何でもいいから、玄関から入ってきて一瞬のうちに胸を刃物で一突き突きにしてでもいいから、とにかく誰か自分を殺してほしいと真剣に願っていた。自殺などをすると周囲は自責の念に駆られたりして悲しみがいつまでも残るため、再生時にまた重いカルマを背負ってこの世に戻ってこなければならないとインドでは言われているからである。

 自分が入院していたら、顔なじみで仲良しの琴美さんが入院してきた。今回は別の緊急救命医療関係からの転院だった。琴美さんは御主人の両親と折り合いが悪く、本気の自殺行動に移るときは、この関係の不味さがいつも引き金になっているようだった。

 琴美さんも長くうつ病を患っている。家にいることがストレスを産むので外に働きに出ており、あまり年の違わない3人の子供さんを有名大学に進学させようと一生懸命頑張っていた。しかし、家の中でうつ病という現代病に理解の在る大人が一人もいないのでいつもぎりぎりの精神状態を強いられているようだった。細い糸はしばしば切れそうになるときがあるようで、調子が傾いてくると深夜に病院に来てはホリゾンを注射されて帰っていった。ある時はホリゾンの錠剤を大量に服薬しているとの事で深夜に病院に来ていたが、アルバイトの若い当直医は、あろう事かホリゾンの筋注をして帰したこともあった。「具合の悪い患者にはホリゾン筋射」と、院長から指示を受けていたのだろう。その時も、ちょっと前にホリゾンを打ちに来ていた。それから何日もしないうちに今回の騒動は起きた。
 琴美さんは度重なるODで、薬では絶対に死ねないことがわかってしまったので、練炭なら大丈夫だろうと思い、子供達に短い手紙を残して、予め用意していた練炭のセットを軽のワゴン車に積んで家を出たらしい。火をつけた経験がなかったのでホームセンターで練炭を購入した際、対応に出た販売員に尋ねたら「真ん中部分にライターで火をつければ薬剤が染み込ませてありますからすぐに火はつくと思いますよ」―――――――とのことだったので、彼女はこの言葉を信じて早く楽になりたい…の一心で目張り用のビニール製のガムテープも積み、一晩車が放置してあっても怪しまれないで済む河原に行き、持ってるだけのありとあらゆる薬をあおって、練炭にライターで火をつけようとしたらしい。けれど何度やってもライターでは火がつかない。おかしいなあ…すぐにつくはずなのに…こんな段階でぐずぐずしていたら、練炭に火がつく前に眠ってしまうと思った琴美さんは、マッチを手に入れる方法を色々考えてみた。しかし、時間は深夜。今更家に取りに帰るのも歯がゆいし、面倒だった。そして暫くして、琴美さんは思いついた。今の時期はお盆だから、コンビニニに行けば蝋燭や線香が入った「墓参りセット」というのが並んでいたことを。その中にマッチが入っていっていたような気がしたらしく、車を飛ばしてコンビニに向った。予想は的中し「お墓参りセット」には蝋燭・線香・マッチがセットになって入っていた。

・・・これで死ねると思って安心して、琴美さんはもといた場所に戻るために車に乗り込んだ。
 
ところが、気づいたら、琴美さんは救急救命センターのベッドの上に紙おむつ一枚というあられもない姿で放置されている時に目が覚めたらしい。文字通り「ここはどこ?私は誰?」の世界だったようだ。意識が戻ってから、車にいた自分が何故ここにいるのかを看護師に質したところ、琴美さんは車の運転操作を誤って電柱に激突し車は大破した。駆けつけた救急隊員が確認したところ、脈は正常だったけれども意識がレベルが非常に低かったので、頭を強打していたら手遅れになるので救急車で病院に運ばれてきたのだと。幸い体の傷は浅く、持ち物から自宅の電話番号を探り当てて電話をしたら、ご主人がびっくりして病院に来たが、琴美さんのバッグから大量の向精神薬の残骸が見つかったため、意識の混濁は睡眠剤によるものであろうということで、薬を点滴で散らしたら安定したのでR病院に移送されてきたのだった。
 琴美さんは「墓参りセット」を購入した直後、急いで車を発進させたところまでは覚えているけれど、その後の記憶が全くなくなっていると落ち着いた様子で話してくれた。結局、睡眠剤やら精神安定剤を飲んでからライターやらマッチやらで、まごまごしている間に、睡眠剤の血中濃度がいい塩梅になったみたいで、「墓参りセット」を手に入れた頃には車を運転できるような状態ではなかったらしい。分かりやすく言えば泥酔状態で車を発進させたようなものだった。死のうという覚悟はもうできてる―――――と言うよりも早く死んで楽になりたかったわけであるから、悲壮なくらい本人は喜んだことだろう。いそいそとコンビニに行った目的が昔はどこの家にも当たり前にあったマッチだったという事実、死のうとしている人が「お墓参りセット」で死のうとしているという点が非日常的過ぎて、特に「死ぬためにコンビにで売ってる『お墓参りセット』を買う」という行為がとてつもなく間抜けで、製造した会社はそのセットを自殺目的で買いに来る客がいるなど予想だにしていなかっただろうと想像すると、おかしくてたまらず、自虐的な琴美さんの行動に大笑いした。
 健常者なら自殺未遂した人なんて狂っていると映るだろうし、そんな経緯を笑ったら失礼かも知れないとか、何で死のうとしたのかという理由についてのほうに自然に興味は流れていくはずであるが、自殺しようとしたことが無いうつ病の入院患者に自分はまだお目にかかったことがなかったし、実際自分も琴美さんのようにICUにお泊りした経験もあるんで、気持ちは聞かなくても分かるのである。だから聞くほうも、話すほうも気楽でいられるのである。
 死のうとして失敗した後は何度も自殺を繰り返すというのは事実だけれど、一旦事を起こしてしまうと、多少興奮状態になるので「もしかしたら自分はこのまま生きていけるかも…」と勘違いする場合が多い。まさに自殺を図ろうとしていた時と、失敗した後とでは精神状態は全く違うのが普通である。
 患者同士はそこらの微妙な感情の変化を何度も体験しているので、琴美さんの今回の失敗談は体に怪我がなかったことも手伝って、「墓参りセット」というギャグめいた小道具が話に一枚かんでいるせいか、お腹の底から笑わせてもらった。本人も「また馬鹿やっちゃった・・・」と言いながらも、「墓参りセット」に救われ、まだ命に縁があったことに対して少し安心しているように見えた。

一段落すると、患者同士での説教じみたやり取りが始まった。

「練炭にちゃんと火がついてからじゃないと睡眠剤は飲んじゃだめだよ~。そんな泥酔状態で人をはねたりしたら、それこそ人生終わりだよ~気をつけなきゃ~。自爆だったからラッキーだよぅ」

「先に薬を飲んだのが失敗の原因ね!」

「墓参りセットってマッチ入ってるんだ~知らなかった~。あんまり最近はマッチなんて売ってないよね~」

「大量の睡眠剤が体にまわったら、意識なんてすぐなくなるんだから運転は無理だよ。あっぶねぇ~。自分は死んでもいけど、他人を殺すのはまずいよね~」

 患者が集まってきて、笑いの渦が広がり、取り敢えず今回は未遂に終わって無事仲間が帰還できたことを皆で喜ぶ。変なきれいごとは気分が悪くなるだけだから誰も言わない。皆、朝起きたら死んでました・・・なんていう状況を渇望している患者なのだから、失敗して残念だったね・・・という気持ちのほうも同じくらいもっている。

「何で死のうとしたの?」なんて野暮な質問をするのはうつ病以外の患者さんである。うつ病で死にたくなったら死ぬことしか考えられないことぐらい、うつ病で入院してる患者なら誰でもを皆知っている。そしてその話を次回の自身への警告として、琴美さんの体験をシェアーするのである。このような場面に遭遇すると、皆、非常にポジティブで、非常に前向きな姿勢になるから不思議だ。

 4階から飛び降りて死のうとした患者さんがいたが、彼の病気は躁うつ病だった上に、結婚が破談になったことが引き金になっていた。一応うつ病は治る病気になっているけれど、躁うつ病の場合は完治は、ほぼありえないと主治医から宣告されていたらしく、彼は4階から勢よくダイビングしていたとみえて、落下地点が建物から遠く離れていた。顔面から落ちているので彼の人相は陥没骨折で破壊され、すっかり痩せてしまって、車椅子で不自由な生活を強いられている。琴美さんとて、人でも跳ねていて、自身も意識不明になるような重症だったら自分達は笑ったりしないし笑えない。一人ひとりの患者の話は「明日はわが身」だからである。

「死ぬつもりだったら、少なくとも7階より上からじゃないと生き残る可能性が高いらしいよ。中途半端な行動が一番馬鹿らしいよね。私だったら、飛び降りるならデパートの屋上辺りがいいと思う。確実に死ねないとハンデを伴った残りの人生が余計辛くなるからね・・・・」本気とも冗談ともつかぬ話を誰かが言った。

 数日前から電話をもらっていたけれども、具合が悪くて電話に出なかったら、病院の外来で偶然電話をかけてくれていた愛さんと再会した。お互いに顔を見合わせたが、どっちもどっち。TOO BAD。
 彼女はデパートの屋上から飛び降りようとしたけれど、下を歩いてる人を巻き添えにしたくなかったので、橋の上から飛び降りたと話してくれた。その川が予想以上に水深が浅かったので、骨盤を痛めてしまって困っている・・・とのことだった。

 そんな話を聞くと余程辛かったんだろうなあと思うと同時に、「死ねなくて残念だったね」って言いたくなるのを必死に隠さなければならない。彼女はうつ病ではなく統合失調症の重症患者で、本人は結婚したいという願望を強く持っていたが、夢はなかなか果たされないでいた。勿論例外もあるが、うつ病患者は死のうと決めたら、自分のことしか考えられなくなるけれど、統合失調症の患者さんはとても心が清らかなので、飛び降りる時でさえ人のことを考えるのである。統合失調症の患者さんは心の綺麗な人が本当に多いとつくづく思った一瞬だった。 

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No title

読みました。

「墓参りセット」ってすごい言葉ですね。

墓がもうすでに死をしっかりイメージさせるのに、

リセットまで付いてる。

そこに引っかかって、暫く考えちゃいました。

Re: No title

いつもありがとうございます。
うつ病の患者って、他の精神科の病気もおなじですが、精神状態は同じ病気になった人にしか分からないし、
想像するしかないんですよね。でも一家の大黒柱である夫が同じ病にかかったから、気持ちが分かるようになる・・・っていうのもなんだか怖いです。お金誰がかせぐの?って意味で!!

大抵、うつ病で自殺を決行する人って「もう、死んでやるぅ」って勢いで突っ走っちゃうんですよね。
その勢いで亡くなってしまう人もいれば、未遂に終わる人いる。
でも今回の自殺騒動で本当に「お墓参りセット」というものを利用して練炭に火をつけていたことが分かったら
先のことまで考えてこんなものまで家族に残して・・・って(涙 っていうことになっちゃったかもって想像するだけでおかしいです(笑

うつ病という状態を分かろうとしない御主人やその両親にさんざん苦しめられているのに、火もないところからいくらでも煙の出る精神科病棟で、入院中も浮いた噂一つでない琴美さんは根っからのお母さんをやってるなあ~って尊敬しています。






> 読みました。
>
> 「墓参りセット」ってすごい言葉ですね。
>
> 墓がもうすでに死をしっかりイメージさせるのに、
>
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>
> そこに引っかかって、暫く考えちゃいました。
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