これが私の書きたいこと! 失いながら生きる(8)

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失いながら生きる(8)

 自分が利用している2つの病院は、勿論気に入っているからお世話になっているわけだけれど、経営方針がまったくと言っていいほど異なっているから不思議である。
 
 片方の病院(T病院)は「うつ専用病棟」(神経症や躁うつ病患者の鬱期も含む)を持っている。勿論、精神病院なので統合失調症患者を主な対象とする閉鎖病棟、隔離する必要のない患者を収容する一般開放病棟、老人病棟なども揃っている。この病院は立て替えてからあまり時間がたっていない上に、設備が非常に上等にできており、看護補助さんの割合も多く、1階の診察室も上の病棟も高級ホテルのような空間の使い方が施されており、常に花が飾られ、季節ごとに壁の装飾品などを取り替えるようなサービスまで提供してくれる。「うつ専用病棟」は別棟にあり、作業療法のメニューも豊富に取り揃えてあるし、ホテルのラウンジのようなスペースもあって、患者が黙って読書をしているのをよく見かける。

 このT病院はうつ病患者が一番儲かるのかなにか自分は知らないが、他の病棟も徐々にうつ専用病棟に変えようとしている。
 統合失調症の重症患者などは紹介状を書いて他の病院にまわしているという噂を聞いたことがあるし、実際に一般開放病棟に居た理解不能な患者(上は背広で下半身が紙おむつ一枚で、ステテコもなし!)はいつの間にかいなくなっており、そこも実質は「うつ専用病棟」となってしまっている。
 この病院で一番居心地がいいのはフランスベッドに一人に一台の冷蔵庫がついている「うつ専用病棟」であるが、ここに入ってくる患者は大学病院の外科医、地元の新聞社の記者、国立病院の婦長や看護師、官僚、高校教師、日本人と結婚した外国人・・・など、比較的に社会的身分の高い、あるいは安定した人達が圧倒的多数を占めている。彼らは少々高い入院費を払ってもトレーニングジムまで完備したホテル並みのサービスを提供する静かで落ち着いた高台にある美しい病棟で、ゆっくり3ヶ月間休養して退院していく。3ヶ月で足りない患者は事実上「うつ専用」と化した一般開放病棟に移されるが、彼らの発病の原因はDVや親の借金などといった泥臭いものではなく、単なるハードワークによるオーバーヒート状態であり、単に休養が必要な人達であるため、3ヶ月以内に退院していく患者が殆どである。

 自分は発病してから後、数年は専らこちらのお世話になっていた。入院は3ヶ月という縛りがなく、今ほど明確ではなく、6ヶ月でも入院していられたからである。しかし、3ヶ月の縛りが厳格に適用され始め、一般開放病棟に移されることになったことがあって、当時、まだそこは混合病棟の様相を呈しており、自分は食事が摂れなくなってしまった。それに懲りて、入院するときはもう一つのR病院を利用している。ただ困ったことに、R病院の開放病棟は食欲がなくなるような光景が繰り広げられる心配はないのだけれど、統合失調症の陰性症状の患者さんや急性期病棟から移ってきた患者さんや自殺を繰り返す人などが混ぜこぜになっており、T病院とは違った意味でそれなりに楽しく過ごせるという面はあるものの、自分は入院中、気づいたら誰かから頼りにされる存在になってしまっていて、相談事の相手をすることが多く、何のために入院しているのかわからないような状態に追い込まれ、挙句の果てには妄想や幻聴といったトラブルに巻き込まれ、強制退院となってしまうのである。しかし、一応、主治医はこちらの病院の先生なので、最近はこちらで先ず入院することにしている。
 
 どちらの病院にも沢山の患者仲間がいるが、笑わせてくれるのは当然、R病院でできた友達ばかりである。

 元銀行員だったNさんとは一度同じ時期に入院したことがある。発病を機に退職されたが、職業柄、真夏以外はいつも必ずジャケットを羽織っておられる。Nさんは常に客観的に物事を捉えることができる方で、非常に清潔感があり、所謂教養もあり、思いやりもあり、まじめすぎるほど真面目な紳士なのである。
 そのNさんが最初にR病院の外来に来られた時には、かなり緊張して自らの症状を切々と訴えたらしい。すると黙ってそれを聞いていた医者から、「じゃあ僕と同じ薬でいいですか?」と、いきなり変化球が返ってきたんで、医者が自分で飲んでるんだったら、効能書きも読まずに安心して飲めるだろうと思い、「はい、それでいいです」と答えたが狼狽したと回顧していた。いきなり「僕と同じ薬・・・」と言われたら自分は別の曜日に違う先生に診てもらうと思う。
 医者が同じ病気を患っているのに、自分はその人の患者という図式は自分の頭の中では描けない世界である。しかし、この病気を患っているんだったら、こちらの精神状態や疲れ方のパターンのヴァリエーションなんかは自身で体験済みなので相談しやすいという面もないとはいえない。しかし、診察中に患者が話してるのに、「お~い誰か、デパス持ってきてぇ」と看護師を呼びつけることもしばしばあるようで、医者の容態を心配しながら患者は診察をお願いしなければならないわけで、やはり自分のタイプではないと思った。

 Nさんは徹底的に自己改造をやったと自慢する。超がつくほどいい加減な人間になろうと決めたそうである。義理人情の世界から自身は逃げたと言われていた。この病気は性格を根本的に変えないと治らない―――――そう感じたそうである。確かにうつ病になる人は小さなことに気づきすぎる側面がある。徹底的に改造したNさんは、今は普通の人になっている―――――と言われるけれど、それでもNさんは思いやりの深い人だ。

 自分と同級生の男性患者Kさんは英語で俳句を書いたり、世界に一台しかないオリジナリティ溢れるパソコンまで組み立てることができるツワモノである。でも時々幻聴に付きまとわれて困ることがあると言っていた。
 そのKさんが外来ついでに病棟にあがってきたことがあった。デイルームで患者がおしゃべりをしているところにどっかりと座って「あ~うざい。これ以上幻聴が続いたら、俺、頭おかしくなりそうだよ~」と顔を歪ませていたら、私の側に座ってた女性患者が茶目っ気たっぷりに「頭がおかしいから幻聴があるんだよ~。逆・ギャクゥ!」と囁いた。なるほど!でもこの台詞は患者同士だからシャレになるわけで、病院の外で健常者に囁かれたらシャレにならないどころか、自分は偏見に満ちた健常者相手との罵り合いに巻き込まれただろう。

 大きなお寺の跡取りなのに、気分障害を患っているケースもある。
 昼食後、外出したまま帰って来ないから外泊だと思っていたのに夕方遅く帰ってきた。この40代前半の男性は、とても優しい人で、誰か傷ついている人はいないかどうか、一緒にいると常に気配りを欠かさない人だった。 何処に行ってたのかを訊いたら、温泉街のお葬式に行って来たと教えてくれた。そして次の瞬間、自分は思い出した。彼は大きなお寺の息子。もしや・・・と恐る恐る尋ねてみたら、やっぱりそうだった。彼は恥ずかしそうに頭をかきむしりながら

 「し、し、仕事しないと、あ~いけ、いけないんで・・・」

 と一生懸命、取り繕いながら、周囲の反応を異常に気にして言い訳を始めた。入院中の患者だって、人手が足りない時は,派手な袈裟を着て,甦らない人間の成仏のために経を読み,戒名の名付け親・ゴッドファーザーにもなるのであると考えたら、やっぱり世間はおかしくみえた。
 
 今しがたお経を上げて帰って行った偉いお坊さんが、精神病院から外出届を出してきたお坊さんで、夕食を摂っているのは精神病院の食堂なのである。これはどんな夢想家といえども決して見ることはできまい。彼は優しいので、怒らない。と、思った瞬間に腹の底から笑いがこみ上げてきて、どうにもこうにも止まらなかった。彼は彼で何故笑われているのかよく分からなかったようで、辺りをキョキョロ見ながら不思議そうな顔をして、つられるまま、一緒に嬉しそうに笑ってくれた。

 発病して丸8年が過ぎ、「反復性うつ病性障害」という診断が下るほど、自分の毎日は、ただただ無気力に伴う虚しさに苛まれる吐き気さえ催す日々ではあるが、こうした優しい患者との、つかの間のやり取りの間だけ、その重苦しさを忘れることができるのである。
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No title

楽しみにして読んでいますけど、

あれれ、7が2回出てきたよ?

一応、突っ込んどきますねw

Re: No title

コメントありがとうございます。

うっかりしてました。ありがおうございます。

面白いエピソードが沢山あるんですが、本人が読んだらきっと激怒すること間違いなしなんで
読まれる恐れのないエピソードに絞ります(笑

読んだだって、嬉しいです

                  薫子

> 楽しみにして読んでいますけど、
>
> あれれ、7が2回出てきたよ?
>
> 一応、突っ込んどきますねw
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